タイでは今、カジノ合法化をめぐる法案が大きな注目を集めています。なかでも議員たちの新提案「約5000万バーツ(約150万ドル)近い資産を持つ地元ギャンブラーしか入場を認めない」という制限が、世界中のカジノ業界や投資家の間で話題を呼んでいます。
■ 地元住民への入場制限とその狙い
タイ議会が検討しているカジノ法案によると、銀行口座に最低5000万バーツ(約150万ドル)を有するタイ国民だけがギャンブルを楽しめるという“資産ハードル”が設けられる可能性があります。さらに、地元住民がカジノを訪れる際には一回あたり5000バーツの入場料を支払う制度も検討中とのことです。
平均年収が約34万8000バーツ(Statista調べ)とされるタイにおいて、5000万バーツもの預金を保持する人はかなりの富裕層に限られます。したがって、この制限が導入されると、ほとんどの国民はカジノに足を運ぶことができなくなるでしょう。
立法者がこうした厳格な制限を設けようとする理由の一つは、ギャンブル依存症に対する国民の懸念に対応するためと言われています。大多数の国民が近寄りにくいシステムを構築することで、問題ギャンブルを未然に防ぐ狙いがあるわけです。
■ 外資系オペレーターへの影響
この方針は一方で「実質的に外国人専用カジノと同じではないか」という意見を生み出しています。韓国のカジノでも、地元住民の入場が厳しく制限され、外国人向けのサービスが主体となっているケースがありますが、タイもそれに近い状況になるかもしれません。
ギャラクシー・エンターテインメント、シーザーズ、ウィン・リゾーツ、ラスベガス・サンズ、ゲンティンといった名だたる海外のカジノ企業がタイ市場に関心を示しているものの、もし実際に地元客がほぼ利用できないとなれば、投資妙味が薄れる可能性は否定できません。大手のメルコリゾーツ&エンターテインメントはすでにバンコクに事務所を構えていますが、こうした新提案が本決まりとなれば、各社が慎重にならざるを得ないでしょう。
■ 政府の諮問機関が示す「厳格な措置」の必要性
この法案は外国資本の誘致や観光業の振興を目的に進められています。1月に内閣で承認された後、国家評議会(COS)に回されましたが、そこでも「資産要件など厳しい基準」を設定するよう求められました。
COSの事務局長であるパコーン・ニルプラパント氏は、「国民をギャンブル依存症のリスクから守るためには、厳しい制限が必要だ」とコメントしています。カジノを国際的な観光アトラクションとして位置づけたい一方で、タイ国内での批判を和らげるために、こうした強硬措置を検討しているようです。
■ 期待される観光ブームのゆくえ
タイの議員たちは、カジノなどの総合娯楽施設がコロナ禍で打撃を受けた観光産業の回復を後押しすると期待しています。現に最近は、海外ドラマ「ホワイト・ロータス」の人気も手伝って、一部旅行代理店ではタイへの予約が前年同月比で300%以上増えるというデータも出ているようです。
娯楽施設を国内に複数つくれば、バンコクやチェンマイ、プーケットといった主要観光地にさらに人を呼び込めるのではないかという見方もあります。ある試算によれば、カジノが併設されたリゾート施設がいくつか誕生すれば、観光客が5%から10%増加する可能性があるとのことです。
■ まとめ
タイのカジノ法案をめぐる厳格な資産要件や入場料などの規制は、ギャンブル依存症への懸念を和らげる一方で、投資家やカジノ事業者にとっては新市場としての魅力が大きく制限される可能性があります。また、カジノが持つ多様な娯楽性や観光資源としてのポテンシャルを最大限に引き出すには、地元住民を含む幅広い層が参加できる環境づくりも重要です。
カジノ産業が健全に発展し、観光客と地元住民のどちらにもメリットをもたらすには、単なる入場制限ではなく総合的なガイドライン整備や依存症対策の徹底が欠かせないと感じます。タイのカジノが今後どのような形で実現し、観光ブームに拍車をかけるのか、引き続き注目したいところです。
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